脊髄小脳変性症と睡眠障害|不眠・中途覚醒の原因と改善方法

脊髄小脳変性症の睡眠障害|不眠や中途覚醒に悩まされている方へ。原因と改善方法を丁寧に解説します。

「夜中に何度も目が覚めてしまう」 「寝言がひどかったり、寝ながら暴れたりしていると家族に言われた」

脊髄小脳変性症(SCD)と向き合う患者さんにとって、睡眠の悩みは単なる「寝不足」では片付けられない問題です。実は、睡眠障害は病気そのものの症状(自律神経や脳幹の障害)として現れることが多く、睡眠の質が悪化すると、病気の進行を早めてしまうという悪循環に陥りかねません。

今回は、SCD特有の睡眠障害の原因と、自律神経を整えて質の良い眠りを取り戻すための具体的な方法をお伝えします。


1. 脊髄小脳変性症で「眠れない」医学的な理由

SCDにおいて、不眠や中途覚醒は脳の司令塔が発信しているサインです。

睡眠呼吸障害といびき

特に多系統萎縮症(MSA)では、睡眠時無呼吸症候群や、喉の筋肉の障害による「高い音のいびき(喉頭喘鳴:こうとうぜんめい)」がよく見られます。これにより脳が酸欠状態になり、夜中に何度も目が覚めてしまうのです。

レム睡眠行動異常症(RBD)

「夢の中の行動をそのまま現実に行ってしまう」症状です。大声を出す、手足を振り回すといった行動が起こります。これも脳幹の機能低下が関わっており、患者さん本人だけでなく、隣で寝ているご家族の睡眠も妨げてしまう大きな要因です。


2. 自律神経の乱れが「進行」を加速させる

睡眠は、脳や体を修復するための大切な時間です。しかし、SCDによる自律神経の乱れや「また眠れないのではないか」という不安は、交感神経を過剰に緊張させます。

眠りが浅いと日中のだるさや意欲低下を招き、リハビリなどの活動量が減ってしまいます。その結果、筋力が衰える「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」が進み、病状の進行を早めてしまうのです。つまり、「しっかり眠ること」は、病気の進行を遅らせるための立派な治療なのです。


3. 自宅でできる対策:睡眠リズムを整えるコツ

質の良い睡眠を取り戻すためには、自律神経の「体内時計」をリセットする工夫が必要です。

  • 「早起き」が「早寝」をつくる:無理に早く寝ようとせず、まずは毎朝同じ時間に起き、日光を浴びて体内時計をオンにしましょう。
  • 昼寝のコントロール:昼寝をするなら午後3時前に、20〜30分程度にとどめます。夕方のうたた寝は夜の不眠に直結します。
  • 「眠くなってから」床に就く:布団の中で「眠らなきゃ」と悩むのは脳を覚醒させます。眠気がくるまではリビングでリラックスして過ごしましょう。

4. 当院の強み:鍼灸と「入浴法」で眠りのスイッチを入れる

当院では、鍼灸治療と独自のセルフケアを組み合わせることで、多くの患者さんの睡眠を改善してきました。

鍼灸による自律神経の調整

頭のてっぺんにある「百会(ひゃくえ)」や、手首の「神門(しんもん)」などのツボを刺激し、過剰な緊張を鎮めて副交感神経を優位にします。ガチガチに固まった首や背中の筋肉が緩むことで、深呼吸がしやすくなり、自然な眠りに入りやすい土台が整います。

当院オリジナルの「入浴法」

鍼治療の効果をさらに高めるために、当院では患者さんの状態に合わせた**「特製の入浴法」**を指導しています。就寝の約90分〜2時間前に、適切な温度と時間でお風呂に浸かることで、深部体温が下がるタイミングと入眠のタイミングを一致させます。

「久しぶりに朝までぐっすり眠れた」という充足感は、日中の意欲を呼び覚まします。睡眠が安定することで、ふらつきの症状が落ち着いたり、進行が緩やかになったりするケースが非常に多いのです。


まとめ

「病気だから眠れないのは仕方ない」と諦めないでください。 睡眠環境を整え、鍼灸で自律神経をケアすることで、脳と体を休める力を取り戻すことができます。ぐっすり眠れるようになれば、明日への活力とリハビリへの前向きな気持ちが必ず湧いてきます。

一緒に質の良い眠りを取り戻し、病気の進行に立ち向かっていきましょう。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

  • 『脊髄小脳変性症マニュアル 決定版!』 (日本プランニングセンター)
  • 『図解 鍼灸療法技術ガイド II-1』 (文光堂)
  • 『小脳と運動失調 小脳はなにをしているのか』 中山書店
  • 『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』 南江堂

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